Differential rotation of the Milky Way disk
Introduction
天の川銀河は大きく分けてディスク・バルジ・ハローといった構造を持っており, 天の川銀河の重力ポテンシャルの中を運動しています. ここでは, 以下のような単純な仮定をおいてディスクに属する星の運動について考えます.
- ディスクの星は銀河中心の周りを円運動している.
- 回転速度は銀河中心からの距離 \(r\) の関数として記述できる.
回転速度と銀河中心からの距離 (回転半径) の関係を銀河の回転曲線 (rotation curve) と呼びます. 以下では銀河の回転曲線の違いが星の見かけの運動に与える影響について可視化をしてみます.
Rotation Curves
銀河の回転曲線として以下の 4 ケースを比較します. まずは基本形 (baseline) として以下の式で定義される回転曲線を考えます.
この回転曲線は銀河中心付近で急峻に立ち上がり, 銀河の外側に向かうにつれて一定の値に落ち着く形状をしています. 実際に観測される天の川銀河の回転曲線も定性的には似たような形状をしています.
次のケースは以下のような回転曲線です.
この回転曲線は \(r^{-\frac{1}{2}}\) に比例して減少します. \(r = 8\,\mathrm{kpc}\) のときの値は \(200\,\mathrm{km/s}\) になるようにスケールされています. この回転曲線は銀河中心にすべての質量が集まっているときに期待される形状です (point mass, Kepler motion).
次のケースは回転速度が半径 \(r\) に依存しない場合 (constant) です.
最後に銀河円盤が剛体回転をしているケース (rigid body) です.
それぞれのケースを図示すると以下のようになります.
Proper motion
以下では太陽系が \((X, Y) = (-8, 0)\) に位置していると仮定します. ここで \(X\) 軸は銀河中心を原点として, 太陽系から銀河中心方向を正の向きとする軸, \(Y\) 軸は銀河平面内で右手系をなす方向に定義します. 位置 \((x,y)\) における星の速度ベクトルを \((v_x, v_y)\) とすると, 銀河面に沿った見かけの固有運動 (proper motion) は以下のように計算できます.
ここで \(\vec{n} = (n_x, n_y)\) は位置 \((x,y)\) を始点としたときに太陽系から見て経度が増える方向, \(\vec{v}_\odot = (v_{\odot,x}, v_{\odot,y})\) は太陽系の速度ベクトル, \(D = D(x,y)\) は位置 \((x, y)\) と太陽系の距離です. 固有運動は mas/yr の単位で表します.
回転曲線が baseline のケースを以下に図示します. カラーマップは銀河面に沿った固有運動の大きさ (\(\mu_\ell\)) を, 灰色のベクトル場は太陽系との相対速度を表します. 太陽系近傍では \(\ell \simeq 0^\circ, 180^\circ\) の方向で固有運動が小さくなっていることがわかります.
比較として回転曲線が point mass のケースを以下に図示します. カラーマップとベクトルの定義は同様です. 全体的なパターンは baseline のケースと似ていますが, 固有運動の大きさは point mass の方が大きくなっています. また, \(\ell \simeq 90^\circ\) の方向と \(\ell \simeq 180^\circ\) の方向で固有運動の差が大きくなっていることがわかります.
太陽系近傍 \((D < 3\,\mathrm{kpc})\) の天体に限って固有運動を銀河経度の関数としてプロットします. 回転曲線の形状によって固有運動の振る舞いが異なることがわかります. 回転曲線が baseline, point mass, constant の場合には \(\ell \simeq 0^\circ, 180^\circ\) の方向で固有運動が大きくなり, 全体として w の形状を示すことがわかります. 回転曲線が rigid body の場合には固有運動は \(\ell\) に寄らず一定値になります. 太陽系近傍の星の固有運動を集めるだけでも, 太陽系近傍の回転曲線の形状を制約できることがわかります.